大学時評 福井 有

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社会文化学部
Consept Note2000
私の授業 12.4


ミッションマネジメント

氈Dミッション
(1)ミッションとは何か
 「わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で提供することに全力を尽くす」
 「産業人たる本文に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す」
 前者は本田技研工業株式会社、後者は松下電器産業株式会社の社訓である。日本を代表する自動車そして家庭電化製品のフラッグシップカンパニーの社訓だが、それぞれ本田宗一郎そして松下幸之助という稀代の経営者の哲学(ミッション)がにじみ出ているように感ぜられる。
 ミッションとは、そもそもキリスト教の布教を任務として外国に派遣される人たちを意味する言葉だったが、現在は何らかの任務あるいは社会的使命を意味するようになってきている。
 なぜ本田氏や松下氏は一代で日本を代表するような巨大な企業を創業できたのか。そこには本田氏や松下氏の立派な商品をつくりたいという気持と、企業が大きくなった後も(例えば本田氏はオートバイで世界一になった後、あえて自動車業界に乗り込んだ。また、松下氏はあらゆる電化製品の売上日本一になった後も、PHP研究所や松下政経塾などの事業展開を行った。)「もうこれでよい」と思わず、さらに新たな企業経営の推進を創造していったからではなかろうか。
 このように企業の成長の原動力は経営者の持つマネジメント力(skill)と、さらに経営者の成長しようとするあくなき意志の力(will)によるところが大きい。このような経営の原動力となる経営者の意志をミッションと言う。
 本稿では、このミッションを原動力とした一連の経営戦略、つまりミッションマネジメントについて述べてみたい。
 ミッションを補う概念としてビジョンとバリューがある。ミッションは企業が何故存在するか、その目的と事業内容を包括した概念である。これは、いわば企業が道に迷った方向へ行った時に帰すべき基本方針であり、進むべき方向を示す灯台の光である。
 市場には競争相手がいて、顧客が存在する。その市場や価格戦略の中で、自分達がどのような位置付でありたいかを示すのがビジョンである。これには具体的な数値目標を入れて説明を加えたりする。
 バリューとはミッションやビジョンをも索制する基本哲学である。いたずらに販売量を拡大したり、規模を追わないという戒めで、経営者の哲学とも言うべき価値観のことを意味する。今でも伝承される住友グループの「浮利を追わず」などが、このバリューに相当する例である。
(2) 経営者のミッション
 営利・非営利に関わらず、組織の存在には目的とゴールがある。企業においてはなおさらで、経営者が念頭におかねばならないミッションには2つの異なった目的と4つの対象がある。
 その第一の目的は「企業が社会に対して果すべき使命」である。およそ企業が存在するためには、地域や社会において必要性がなければ意味はなさない。
 持主や社会に支えられ、顧客に育てられて経営は循環していく(ゴーイング・コンサーン)。第二の目的は「企業内の従業員に対して果すべき使命」である。企業の内部に勤める従業員及び家族の収入基盤は、その企業の経営トップの手腕にゆだねられている。経営者は常にこのことを念頭において外部環境の変化や競合他社の動向の情報分析に目を見張っておかねばならない。
 また、ミッションには4つの対象がある。この対象は従業員という直接的ステークホルダー(利害関係者)と顧客、株主、社会という間接的ステークホルダーに分けられる。
 従業員というステークホルダーは経営者から見るとサービスを提供する対象であるが、一方、企業という組織から見ると従業員はサービスを受ける対象ではなく、経営者と協働して企業活動を行う側にも立つことになる。
(3) 好循環サイクルの経営
 仮に或る企業のミッションに「顧客第一の経営」というテーマを設定したとしよう。いい商品は顧客に育てられるという哲学のもとに生産が行われるようになると、売上も上り顧客のリピートオーダーが増す。また、顧客が固定化し商品ブランドに対し提供者と消費者という関係が出来上がる。
 結果的に仕事のやりがいが創出され、従業員の志気も向上する。売上が上るとコストの削減にもつながり、業績を押し上げ、利益も右肩上りとなり競争力もついてくる。
 株主に対しては株価が上ることと配当という形で貢献出来、また地域社会に対してはフィランソロピー(社会貢献)事業を通じ地域に根ざす企業となり得る。
 結果的に社会的信用度も増して再投資が可能になり、さらなるマーケットを確保出来る。このように、ものがプラスに転換すると好循環サイクルの経営が可能となる。このような好循環サイクルの代表例としてスターバックスコーヒーがある。

.ミッションマネジメント

(1)ミッションマネジメントの役割
 社員の潜在能力がフルに発揮され総和となって、一つの目標に向った時ほど大きな成果が得られることはない。何かのプロジェクトに取組んでいる時、何を見ても、何をやっていても「そのプロジェクトの関係で物を見てしまう」こういう精神状態をプロジェクト・コンシャスネスと言う。
 ミッションマネジメントの役割を一口で言うとすれば、企業活動のすべをミッションの元に統合するということである。
 企業が外部環境や競争の波に打ち勝って存続していくためには、経営目標であるべきミッションを明確に理解し、その達成に向けて相互の整合性を保ちながら戦略を立て、同時に組織への求心力を維持していくことが肝要である。
 企業が競争力のある強い組織集団であり続けるかどうかは、社員が仕事に捧げるエネルギーの総和と、そのエネルギーを一つの目標に統合する力によって決定される。

(2)コア・ビジョン(主要目標)
 ミッションの内容をよく見ると、企業によっては、その組織が達成しようとする主要目標(コア・ビジョン)に力点をおいたものと、社会的使命などの主要価値(コア・バリュー)に重点がおかれたものが見られる。
 ビジョンとは企業が考える将来の姿であり、競争相手そして社会における関係など4つのステークホルダーとの関係も含んだ理想的な姿(ポジショニング)を表す。

(3)コア・バリュー(主要価値)
 企業の根本に流される哲学、あるいは創業者の心であり魂とも言うべきものがコア・バリュー(主要価値)だ。企業が市場の競争の波にさらされたり、環境の悪化にともない、その方向性を見失わないそうになった時に、何が決定や行動のよりどころかを示す一連の信念である。
 別の言い方をすれば、バリューとは社員が何を大切に思っているかであり、新入社員も他の社員の行動や社風を見て何がバリューかを感じとれるものでなければならない。
 ケン・ブランチャード、マイケル・オコナー共著の「価値によるマネジメント」によると、企業におけるバリューは
1. コア・バリューの確認
2. コア・バリューの伝達
3. バリューと行動の一致
の3つの段階で浸透させるべきだと説いている。
「誠実」「利益向上」「顧客優先」などの、ありふれた言葉では意味がなく、実際にこういったバリューが効力を発揮するときは、(a)社員の実際の行動にてらし合わした定義があり、さらに(b)優先順位を示すランク付けがある場合である。
 そういった日常の行動から一つずつバリューが確認され、社内に広まり、やがて社風や企業の価値観へと醸成されていくのではないだろうか。
 この「価値によるマネジメント」のプロセスにかかる時間の80%は、バリューと行動を一致させる段階で費やされるのである。

。.ミッションマネジメントの実行

(1)組織・目標の設定
 尚、ミッションマネジメントの実行に関連して大切なことは、企業ミッションを共通の基盤とした企業理念と行動指針との有機的な連関である。ミッションとは創業者の理念別哲学であるので、そこには創業者や企業独自の価値観に支えられた哲学がこめられている。
この哲学は時代が変わっても不変である。それに対して行動指針とは、企業理念に基づいて行動を起すガイドラインとも云うべきもので、時代とともに変わりうる。
 よってこの不変の企業理念と環境の変化に対応した行動指針とは共通の価値観の上に有機的に繋がっていなければならない。当然のことながら企業活動は日夜行われており、日々刻々と変化している。この活動は組織単位で行われているので、重要なことは企業組織のこれらの活動が、どれだけ企業ミッションと一致しているか、またはミッションを念頭において行動しているかということになる。
 企業ミッションを印刷して社内に掲げたり、会社案内に印刷しても、それが実際の企業活動に反映されなければ何の意味もなさない。企業内での価値数を明らかにし、それを組織のメンバーが共有して各自が行動に反映させたとき、企業活動が目的のある行動へと変化していく。

(2)良い組織
 ある目的で誕生した組織も、その目的を当初の予想よりも高い度合いで、達成するものもあるだろうし、そうでない場合もある。組織を運営する人は、みなその組識を良い組織にしたいと考えるだろう。
良い組織とは、堺屋太一氏によると「大きな組織」「固い組織」そして「強い組織」と三つの種類があると指摘している。
「大きな組織」は組織を構成するヒト・モノ・カネ、そして情報が多いことだ。ヒトとは従業員数、モノは不動産などの純資産額、カネは現預金・有価証券などの総資産額に加え、伝統や市場なども含む。また、情報の多さは時差やコストの差を生み出す大きな要因になる。従ってある程度の大きさ(スケール・メリット)が組織活動にはプラスに働くということだろう。
「固い組織」は昔から人の三井、組織の三菱などと言われて来たが、組織の固さはその帰属意識と組織力(機動力)で表すことが出来る。もともと日本人は自分の属する会社に対する忠誠度は高く、終身同じ会社に務めることが美徳とされてきた。また一旦事あると、一致団結して組織力を示すといった話を聞かされたものだが、バブル崩壊後の昨今の企業合併や統廃合の状況を見ると、この忠誠心に翳りが見え始めている。
 「強い組織」の尺度は、目的達成能力の高さを表す。組織の目的を達成するにはまず、意志決定を迅速かつ明確に行うこと、そしてその使命が全員に徹底し、確実に実行されることが大前提である。
 今一度、ミッションによるマネジメントの成否は「自分達のミッションは何か?」「自分達はどのような貢献を組織に対してなすべきか?」「そのために何が差別化要因か?戦略課題か?」「どのような達成日程を掲げるか?」という質問に立ちかえって検証することが肝要である。

(3)業績評価
 アーサーアンダーセン・コンサルティング社のキャプランとノートン氏による業種評価基準にバランス・スコアカードによるものがある。このバランス・スコアカードとは「財務的視点」「顧客の視点」「社内ビジネスプロセス」そして「学習と成長の視点」という4つの視点から構成され、ミッションと部門目標のバランスあるいは、株主、顧客、社員等のステークホールダーとのバランスもうまく保ちながら、企業変革を進めていくことができるモデルである。
 これらの視点のうち、最も重要なものが「財務的視点」である。収益性を保ちながらも成長性、安全性、効率性などの観点から業務を観察していくことが肝要である。この「財務的視点」を達成するために必要なのが「顧客の視点」である。マーットのサポート無しに企業の生計は成立たない。マーケットシェアやセグメンテーション販売に目を向けるとともに忘れてならないのが、顧客の満足度である。顧客ほど移り気のある者はいない。価格、サービス、品質などすべての基準で競合他社に負けないクオリティを保ち続けるかが大きなポイントとなる。
「財務的視点」と「顧客の視点」が設定されると、これ等を実現するために「社内ビジネスプロセスの視点」が必要になってくる。このビジネスプロセスにはさらに開発、製造、流通、そしてアフターサービスの三つの部分における業績評価基準を設置することが望ましい。
 最後に必要な視点が「学習と成長の視点」である。新しい戦略を成功させるためには、従業員にその戦略を実行させるための教育が重要で、またその成功への動機づけがされなければならない。
 このようにバランス・スコアカードによる評価は定期的にチェックして改善を加え、常に新しい戦略別に再構築していくことが望ましい。
「.非営利組織のミッション

(1) 非営利組織のミッション
これまで述べてきたように、企業が成長・発展していくには経営者の理念としてのミッションを明らかにし、その達成に向けて戦略を構築し、組織全体に浸透するよう心がけていかねばならない。
 この考え方は大学・病院・NPOなどの非営利組織においても適応される。むしろ営利を追求するという明確な達成目標がない非営利組織ほど、ミッションを明確にして、マネジメンントを通じ組織への求心力と一体感を維持していくことが必要なのかもしれない。
 ピーター・ドラッカーによると、企業と大学のような非営利組織との最も大きな違いは人のマネジメントや人間関係のマネジメントの分野であると指摘している。企業においても経営者が組織に働く者が、給与や昇進だけで動機づけられるわけではないということを知っている。しかし非営利組織では、その何かが企業よりもずっと必要とされていると説いている。
 大学運営における使命が必要な理由はこれまで述べた通りだが、これを実行にうつすには組織立てることが重要だ。そして、その組織がどのような評価を受け、どのような成果をあげるのかということが確認出来るシステムの構築がいるだろう。また、その組織に働く人の能力も無視出来ない。
 資源とは、人材や組織がつちかってきたノウハウのことで、組織自体が持つ能力というものの再確認も大切である。

(2)大学のステークホルダー
 大学をめぐる利害関係者はパブリックという言葉を英語では使うのが一般的であるが、ここではあえてステークホールダーというビジネス上の言葉を使用する。ステークホールダーとはポーカーゲームでお金をかける人という意味から来ている。
 下記の図−6において大学を中心に大学に影響を与えるステークホールダーは、高校生、受験生が在校生、保護者になり、卒業生、同窓生となる一つの流れと、地域社会や卒業生がお世話になる就職先企業、そして大学で働く教職員などすべてを指す。また、企業の中には大学に機器や食料を納入したりする業者も含まれる。
 これ等のステークホールダーを優先順にグループ分けをすると図−7のようになる。プライマリーは在学生、教職員、理事などの直接関係者であり、セカンダリーとプライマリーの中間にインダイレクト関係者がおり、保護者、卒業生、志願者などがこれにあたる。また、マスメディアや競争相手校などはセカンダリーグループに入る。この分類は各大学において行われるべきで、その大学を取り巻く関係者とのつながりを確認する上で重要な作業となる。また、これ等のステークホールダーごとに大学に対する要望や関心は異なる。このそれぞれのステークホールダーごとに大学のミッションを伝えていくことが肝要で、それは広報政策として考えて考慮すべき大切な戦略である。

(3)大学のミッションの考え方
 ここで大学というものを中心に学生、教職員、法人そして社会という4つのステータスホールダーに対し、ミッションステートメントを考えてみる。今、国立大学の独立法人化の動きが具体化しようとする動きの中で、国立大学といえども予算配分の根拠が市場原理によって決められるようになる。つまり国立大学の自己評価や理念構築が声高に叫ばれているのは、こういった理由によると大坂大学の本間正明教授も指摘している。
 国公私立を問わず理想の教育の姿というものの、一定の形態というものはないが、仮に「個性の尊重と心の教育」とした場合、これが種々の方策で学生に伝わったと仮定する。またそのミッションを実現するため、教職員は「教育の工夫と研究の充実」に取り組む、一つの目標に取組みだすと改善がなされやすくなる。
 教職員の取り組みは学生に伝わり、学生からさまざまなかたちで評価される。こうした学生による評価は教職員にとっても仕事のやりがいを生むと同時に応募者増や受託研究費等の増加につながる。こういった循環は組織の継続と繁栄につながり将来的に社会的評価も上昇していく。
 このような好循環サイクルの経営が、一つのミッションから生まれる理想的なマネジメントスタイルと言えるのではないだろうか。
             (社会文化学部論集第1号、2001年1月)<参考文献>

 「ミッション経営のすすめ」小野桂之助 著  東洋経済新報社 
 「成功へのミッション」ケン・ブランッチャード、テリー、ワクボーン著  ダイヤモンド社
 「ミッションマネジメント」アーサーアンダーセン・ビジネスコンタルティング著  
 「グループ経営マネジメント」アーサーアンダーセン・ビジネスコンタルティング著 
 「バリュー経営」一条和生 著  東洋経済新報社
 「組織の盛衰」堺屋太一 著   PHP研究所
       

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