大学時評 福井 有

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韓国専門大学を視察して

(1)視察の目的
 9月初旬全国大学実務教育協会の役員と共に韓国専門大学を視察に出かけた。目的は、18歳人口の低減気にさしかかり学生募集に苦しむ日本の大学の運営に何か学ぶような点があれば参考にしたいという事だった。
 ここ韓国高等教育の就学適齢人口(18〜21才)が大学に在学する率が1995年に50%前後だったものが、2001年には83.7%と世界に例を見ないほど短期間に量的発展を遂げているのである。
 私としてはこの進学率が80%という驚異的な伸びを示している理由はなにか、そしてそこに学ぶ学生達の教育レベルの実態はどうかといった点に関心があった。

(2)4つの躍進する専門大学
最初の訪問校はソウルの仁徳大学。韓国では規制が緩和され1998年より日本の短期大にあたる2年制の専門大学が、4年制大学の名称である「大学」を名乗る事が可能となった。従って大学名だけで4年制と2年制の区別はつきにくい。
 一般的に「〜科学大学」とか「〜情報大学」などと名称変更後、学科の特色を表す呼称が入っている大学は2年制大学が多い。また永進専門大学のようにあえて専門という名称にこだわっている専門大学もある。

 仁徳大学の学生数は8400名、内委託生と呼ばれる社会人が約19%の1600名を占める。これらの社会人教育は主に夜間に行われ 夜遅くまで熱心な授業が毎日開かれている。主な学科は情報科学、機械工学、建築環境、放送情報、産業デザイン、インターネット、人文科学と多岐にわたり、夜間生は企業から卒業資格を取ることを条件に学費が支払われているそうだ。
 同大学は長崎の長崎ウェスレアン短期大学と提携しており、ウェスレアンからの留学生3名が紹介された。みんな韓国語で立派に挨拶をしてくれた。
 お昼には高層ビルの最上階にある教職員用の特別食堂で韓定食をご馳走になった。幹部教員はアメリカの大学で学位を取っている人が多い。
 現在韓国には4年制大学は172校で入学定員が34万人、さらに専門大学が159校で29万人の入学定員、双方合わせて82.7%という世界1の高い高等教育進学率を誇っている。

 2番目の訪問校は同じくソウルにある漢陽女子大学。この大学も専門大学であるが大学名を名のっているので尋ねてみたところ李珍性学長は「専門大学から専門という字が取れて学生や教職員がプライドを持つようになった。」と答えられた。1998年の名称自由化で7割近くの専門大学が大学名を付けたそうだ。また学生応募の変化については「応募状況については大きな変化は見られないが、プラスには働いている。」という解答だった。 
 同校の学生数は7600名、内委託生が1500名と企業派遣学生が20%も占めている。今回訪問した専門大学に共通するのは、規模が大きく学生総数は6,7000人を越えること、理工系分野を持ち委託生という社会人教育制度が充実していることがあげられる。

 漢陽女子大学でこれだけの学生を教育する専任教員は141名、非常勤410名に加え兼任教授という企業派遣の教員が41名数えられている。
 e-vision2010というミッションのもとに「改革・発展の土壌構築」「教育環境変化を受容」
そして「産業環境変化への積極対処」という目標を掲げている。単位銀行制と呼び資格や専門学校のなどの学外で修得した資格を単位として認める制度も注目された。
 3日目はソウルから飛行機で南へ1時間の蔚山市にある蔚山科学大学を訪問した。同大学は本学の提携校でもあるので、到着すると羅商均学長以下幹部教員に歓待され「韓日両国高等教育懸案論議」という看板のかけられた会場でお互いに討議する設営が仕組まれていた。
 蔚山市を一望に見渡せる小高い丘に位置する蔚山科学大学は、5年前に完成したというカーテンウォールの新校舎が整然と立ち並ぶ美しいキャンパスだ。総学生数は6100名、例外にもれず内1600名が委託生で1999年より制度化された3年制課程の在籍者も2700名いるという。

 専攻はコンピュータ情報学部、機械学部、空間デザイン学部、電気電子学部の4つの学部と19の専攻が設置されている。特に韓国政府教育部評価で工業系最優秀大学に3年連続選定された名門校である。
 また同学園は韓国を代表する財閥である、現代グループの資本により運営されているので企業との連携も大層強く地元産業界とのさまざまな交流事業が展開されている。
 「2003年までの大学運営の改革課題は70項目」と言う羅学長のリーダーシップがその力強さを物語っていた。

 最後の訪問校は大邱市の永進専門大学だ。この大学からは昨年本協会へ視察へ来られたことがあった。「我々は国家顧客満足度全国1位の大学です。」と胸を張る崔達坤学長に説明を聞くと、同大学は産業界のニーズに合わせて1995年に注文式教育(Customized Education)という制度を全国に先駆けて導入し、その後専門大学の成功モデルとなったのだそうだ。
 つまり企業からの要求を徹底して実現することにより、学生の実力を向上させ就職に結びつける。企業、大学そして学生のトライアングルのニーズがうまく循環するシステムだ。
 8000名の学生数を有する同大学は、8系列4学科で構成されるカリキュラムのうち8系列はすべて注文教育システムにより運営されている。また全専任教員290名のうちの60%は産業界出身者を採用しているという。

 学内にはテクノパークと呼ばれる独立研究所が配置され、専任教員3名がはりつきこの他にプロジェクト専任教員と職員15名が常駐。
 パーク内はテクノショップ、電子テクノセンター、度量衡センター、国際規格認証センターなどで構成されコンピュータ・チップやプラスチック金型などを学生が実際に製造し市販している。ちなみに昨年の同センターの売上は1500万円ですべての従業員の人件費はこのテクノパークの独立採算でまかなえていると言う。
 これまでに企業から寄贈された教育機材総額は総計100億円にのぼり、韓国の6大テクノパークに指定されているとのこと。情報回線は40ギガビットのホスト2台を中心に、4000台のパソコンが無線ランでつながれており来年からはサイバー大学を立ち上げる計画だそうだ。
 ここまでくると、どこまでが非営利の大学でどこまでが営利企業なのか理解できない感じがした。

(3)「委託教育」と「注文サービス教育」
 特に専門大学の躍進の鍵とも言えるのが「委託教育」と「注文サービス教育」だ。この2つの特徴的な制度を比較すると次のようになる。
 「委託教育」とは基本的には企業派遣プログラムのことで、主に社会人が夜間に研修する制度である。日本の同種のプログラムと比較すると期間が比較的半年〜1年と長期間で徹底した実務教育が行われる点だろう。そして今回訪問したどの専門大学にもこの委託制度が設けられていた。
 今ひとつ特徴的な制度が「注文サービス教育」である。永進専門大学が始めたこの制度はむしろ「注文サービス学科」と考えた方が理解がしやすいかもしれない。「委託教育」が教育方法であるのに対し、こちらは学科全体を通じての考え方のようなものだ。
 つまり対象は伝統的な一般学生で企業の注文やニーズに合わせて教育を行うシステムである。企業が必要とする実務能力をもった人材を育成するので、学生には早い就職を企業には就職後も再教育や研修の手間が省けるのが大きなメリットだ。なにより就職後の定着率が良いとの評判だ。

 以上4つの韓国の代表的な専門大学を見学したが、日本で言う「短期大学」の枠内ではとてもとらえきれないほど変貌を遂げている。4年制大学との差別化を明確にし、社会の短期高等教育機関としての位置づけがなされており、産業界、政府、大学つまり産官学三位一体の協力のもと質、量共にその充実発展ぶりが見てとれるのである。
 まさに永進専門大学のパンフレットにある「大韓民国のプライド」を見せつけられた視察だった。 
     (教育学術新聞 02年11月6日、アルカディア学報96号) 

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