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評価に耐えうる大学作り
(1)アメリカの大学市場
私は長年、アメリカを中心に海外の大学の事例を研究してまいりました。数えてみますと、日本私立大学協会や全国大学実務教育協会等いろいろなメンバーと20年間に38回海外出張し、約100の大学について調査してきました。そこで、まず日本とアメリカの大学を比較しながら、マーケットの違いについて見ていきたいと思います。
はじめに大学、短大の在籍者数ですが、日本は大学数650校で274万人、短大は572校で32万人です。一方、アメリカは大学数2244校で735万人、日本の短大にあたるコミュニティ・カレッジが1624校で575万人となっています。
日本の人口は1億2000万人、アメリカは2億8000万人で人口は約2・3倍ですが、学校数で見ると、大学は3.4倍、コミュニティ・カレッジでは2.5倍になります。また学生数で見ますと、大学では2.7倍、コミュニティ・カレッジでは17.9倍にもなります。私などは人口が2倍だったら、学生数も2倍だと思うのですが、実際にはアメリカの大学マーケットは非常に大きいということがわかります。
次に大学の特長を見ますと、日本の大学はフルタイムの学生がほとんどで、高校生中心・学部教育中心です。そして、日本のほとんどの大学は日本語による日本人のための教育がなされています。
では、アメリカはどうかといいますと、パートタイムの学生が多く、全体の43%を占めています。そして、必ずしも高校からダイレクトに来ているわけではなく、一度、社会に出てから大学に戻る社会人が46%もいます。
当然、社会人が大学に戻ろうとすれば、9時5時、月金の授業は受けられません。ですから5時9時や土日の授業、サマースクールになります。こういったダイナミックなカリキュラムがあることによって、ビジネススクールや大学に社会人が通っています。さらに、人種も多様で、白人系が4、5割で、あとはスパニッシュやアジア系など国際的です。
そして、アメリカは大学院が充実しています。そのためアメリカの大学院では世界中から学生が集まって来ますが、日本では奨学金をつけて懸命になって留学生を集めています。
ですから、アメリカの州立大学などは、一番学費が高いのが留学生となっているため、留学生が来ればくるほど儲かるシステムになっており、逆に日本の場合は、留学生が来れば来るほど儲からないという状況になっています。
次に短大の特長を比較して見ますと、日本は私立、小規模、女子学生中心、リベラルアーツ型です。それに対してアメリカは公立、大規模、共学、社会人中心、実務型、編入実績と対照的になっています。
特に編入実績については、ここ10年ほどのコミュニティ・カレッジの発展の姿は凄く、平均で卒業生の約40%が四年制大学に編入しています。
さらに、私が強調したいのは学生数です。日本の短大は572校で32万8000人。一校あたりで見ますと、平均は573人です。アメリカのコミュニティ・カレッジは1462校で575万人。一校あたりの平均は3932人なのです。
これはアメリカだけなのかといいますと、そうではなく、例えば韓国では進学率が80%もあり、大学が40%、短期大学も40%の進学率を誇っています。韓国では短期大学を専門大学院というのですが、159校あり、学生数は60万人で、これを平均しますと学生数は一校あたり3773人になります。
次に入試についてお話をいたします。日本では平成4年ぐらいをピークにどんどん高校生が減ってきました。そこで我々は、まず入試科目を減らし、次に受験回数を増やしました。
その結果、推薦と一般を合わせると何度も受験できる学校が増え、さらにAO入試や制度の多様化により倍率は上がりました。しかし、倍率というのはそれを全部合計しますから、志願倍率が上がったように一見見られます。
つまり延べ人数で見ているからで、志願倍率は高くても実際の入学者数は定員を割るといった大学が出てきています。
一方、アメリカの入試は、クオリフィケーション(資格)を取るために、SATという日本でいう全国共通テストを受けます。この試験を高校2年ぐらいから何度も受けるのです。
そして、このテストは全国の平均点に対して自分は何点かというのが出ますので、ある程度の点数を取ると、校長のレコメンデーションやスポーツの実績、ボランティアの経験などを書いて自分の希望する何校かに送るわけです。そうしますと、よくできる子などは高校二年の秋ぐらいにハーバードやMITといった大学に受かる子が出てくるのです。
では、どうしてこういうことができるのかといいますと、入試というのはアドミッション・オフィスのプロの担当者が、一年をかけて自分の学校に来てほしい学生のプロフィールをしっかり調査しているからです。
しかし、日本では今でも選抜入試です。受験者が潤沢にいる時なら選抜でもよいのですが、現在の需給バランスを考えますと日本もアメリカ型の資格入学の時代に入っているのです。
短期大学では、7、8割の学校が志願者数と定員がイコールになっているわけですから、選抜などしていられないはずです。ですから、いつまでも選抜方式の入試ではなく、自分の学校はどういう学生が欲しいかということを考えて、面接等で大学の使命なりを伝達して、一年を通して自分の学校にふさわしい学生を全国から集めるような入試に変えていかなくてはいけないと思います。
(2)エンロールメント・マネジメント
私は、これからは入試の倍率を高めるということでなく、歩留まり率が非常に重要になってくると思います。そして、この歩留まり率ということを4年間一貫して考えて、大学の一つの経営的な基軸にしたのが「エンロールメント・マネジメント」という考え方です。
エンロールメント・マネジメントとは、「入学から卒業まで、学生の個性を見ながら、それぞれの目的に合ったプログラムやサービスを提供しながら支援していくマネジメント」のことです。
この概念には非常に重要な指標が二つあります。一つはフレッシュマン・リテンション・レイト(一年生から二年生に何%進級したかという進級率)で、もうひとつはグラジュエーション・レイト(卒業率)です。
では、何故これが大事なのかといいますと、アメリカでは入学は能力判定で入学してきたわけですから、その学生が本当に四年間満足して卒業したのかということも調べないといけないという考え方があるからです。駄目だから放っておくというのではなく、入学してからどうやって教育していくかということに力点をおいているのがアメリカの大学です。
エンロールメント・マネジメントの関与する分野は、受験マーケット、リクルート、入試、在学中、卒業という、学生の目線に立った全ての分野にわたっています。それは、入学した学生を全員卒業させるということではなく、学生の観点に立って、勉強や就職指導にといろいろなサポートを学校が支援するという考え方があるからです。(エンロールメント・マネジメントの概念図 参照)
(3)大学組織の違い
アメリカでは学長は経営の総責任者であり、理事長は学校の中にはいないのです。理事会というものはありますが、学外にあって、その理事会の議長が理事長なのです。
そして、理事長は経営のチェックを半年か一年に一回するだけであって、現場にはほとんど出てこず、財政支援と経営チェックをしています。こうした経営と教学が分離しているところがアメリカの大学のいいところではないかと思います。
日本の大学では、学生が潤沢に来て選抜していられる時代は、理事長は経営的な側面で責任を持ち、学長は教学的な面を受け持つということでよかったわけです。しかし、この厳しい経営状況下にあっては、教授会を代表する教学の論理と経営側の経済の論理とがうまくバランスをとって、学長・理事長がマネジメントを発揮しなければならないと思います。
平成四年をピークに学生数が減少を始めると、教学優位の時代から経済優位の時代へと変わってきました。そうしますと、大学における運営のほとんどが学生の納める学費で行われているということを踏まえると、彼らを「顧客」として見ていくことが必要になります。
それに伴い、これまで学会・教員による評価であったものは、学生やマーケットによる評価へと変わり、研究者としては立派でも、その先生の授業が分かりにくい、学生の満足度が低いということであれば教育に力を入れなくてはなりませんし、社会サービスとして地域にも貢献していただくことも重視していかなくてはならないことになります。
大学は、今や学問的生産性の向上に加えて、教育的生産性を高めていかなくては組織としての総合力が弱まってしまう時代に入ったと私は思います。
2 共学化について(1) 共学化へのきっかけ
まず、私どもの学園の沿革についてお話をさせていただきますと、1946年に大阪城の前に女子学園として始まり、51年に短期大学、66年に女子大学を作りました。そして、70年代から八〇年ぐらいは学生がたくさん来てくれましたので、あまりマネジメントというものを考えなくてもうまくいっていた時代が続きました。
ところが、平成に入り大きな出来事がありました。阪神大震災です。この大震災により状況は大きく変わりました。
平成7年1月17日の朝、自宅を出て学校に着き、倒壊している校舎を見た時は「これでうちの学校も終わったかな」と思いました。
その後、文部省の支援などもいただき、1年で校舎だけは再興することができました。しかし、震災の影響に加え、不況、18歳人口減、女子大という三重苦により、学生が来てくれなくなり、定員割れが何年か続きました。
そこで学園の立て直しのために、新しい学部を作ろうということになり、短期大学の定員の一部を回して環境と情報の学部である社会文化学部を申請しました。
ところが、今までの文学部の先生がどうも新学部は共学になるらしいということをきいて、反対の意見が出てきたのです。最終的には教授会のコンセンサスを得ることができ実現したのですが、その際、阪神間には文学部のある大学が九校あるのですが、それが全部女子大でしたので、「脱文学」、「新しい男子校」のイメージを売り出そうということで、文学部も人文科学部と名称変更し、共学化がスタートしました。
4年前に共学化し、今、ちょうど四回生まで来ていますが、男女の比率は男子が57%、女子が43%となっています。
(2)共学化以降の変化
大学としてはこれまで女子大という長い伝統がありましたので、その上に新しい大手前のイメージを共学化と新学部の設置とあわせ、「伝統」と「革新」ということを訴えていこうと考えています。
学生が大学を選ぶ理由に、「安・近・単」(安くて近くて簡単)ということがあります。しかし、イメージだとか、ブランド、競合校、偏差値、それから最近ではアメニティというのも大事な要素になっています。そして、就職率、環境、カリキュラム等によって、学生が満足してくれたかということが総合力になって現れるのではないかと思います。
満足しているかどうかという基準にはいろいろあり、期待して満足が少なかったら満足度は非常に低く、その逆であれば、満足度は非常に高くなるわけです。
そして、こういった目に見えないプラスアルファのほとんどは口コミです。ですから大事なことは、在校生を大切にするということになるわけです。そこで、私どもの大学では「学生に親切」ということをキャッチフレーズに掲げ、学生と接しています。
では続いて、共学化以降、具体的に学校がどのように変わっていったかに関して、受験マーケット、教学関係、就職指導についてお話をしたいと思います。
@ 受験マーケットの変化
女子大の時は800校ぐらいの高校から学生をいただいていましたが、今は3000校ぐらいから継続的に学生を送っていただくようになりました。そして、これまでは私立中心でしたが、公立高校からも受験者が増えました。
また、本学の立地は大阪梅田と神戸三ノ宮の真ん中にあり、これまでは兵庫県がマーケットでしたが、共学化によりマーケットは大阪府に移り、阪神間の中堅大学としての位置付けができたのではないかと思っています。
そして、学科別志願者の変化も見られるようになりました。一番変わったのは文学部の史学科です。女子大の時はそれほど目立った学科ではありませんでしたが、共学になって今、人文科学部の中で一番人気があり偏差値も高く、倍率が高いのが史学科なのです。これは予想できませんでした。それまでは英文科でしたが、英文科は急激にダウンして、現在は史学科の男子が人文科学部を引っ張ってくれているという状況です。
A 教学関係
ほとんどの大学で「うちの大学ではどんな勉強ができるか」ということを高校生にPRしていると思いますが、私どもの大学では「ハウ・トゥ・ティーチ」ということに力を入れるようにしています。
そして、この「ハウ・トゥ・ティーチ」を検証するために、FDを月に一度は行っています。ここでは、教授方法やカリキュラムの改善を通して、教官の質的向上を目指しています。FDの対象となるのは、授業方法の研究、教材開発、グループダイナミックス、OJNET(インターネットを活用しての学生支援)、オリエンテーション、接続教育などです。
また、共学化により学内が非常に活性化しました。クラブ数も大幅に増えましたし、何より学生のリーダーシップをとってくれるのはやはり男子です。
そして、環境への配慮についても、それまでは女子大でしたので、男子が来ると汚れるということを聞いており、非常に気を遣いました。そこで、学生部長が大変熱心に駅から大学までの道の掃除を始めたところ、それが職員やボランティアの学生などに広がりました。その結果、近くのお店の人たちも声をかけてくれるようになり、初めてコミュニティと打ち解けることができたと実感しています。
B就職指導
就職指導については、企業の方も大手前は女子大だというイメージがまだあるため、共学になったことをシンポジウムなどで説明したり、コマーシャルを流したりと、学校としてできることはいろいろやっていますが、如何せん厳しい状況です。
そこで、学生たちには大企業に勤めるだけが就職ではないということを言っています。新卒一般大量採用の時代はもう終わり、今は大きな会社に入ってもいつ辞めるかわかりません。
ですから、自分で何とか一人前になってもらいたい、その意識を学生の頃から持ってもらいたいということで、早期からのキャリア教育、ゼミでの個別指導、資格教育支援、NPO、ボランティアへの関心、学生ベンチャー等を掲げたキャリアサポートを行っています。
このキャリアサポートについては、就職室が教授会に働きかけ、卒業単位には認められていませんが、単位化されました。そして、今後は必修化に向けて準備を進めています。そうすることによって、学生の就職意識や勉強意識を早く植付けていきたいと考えています。
さらに、大阪市内にベンチャー・インキュベーションセンターの開設も計画中です。
(1)評価時代の原則
これから評価の時代を迎えますと、原則として情報が公開されます。そして、情報が公開されますと、それが数値化され、さらには比較されるようになります。非常に怖い時代ですが、逆に言えば、その数値が上がれば人気も上がるということになります。
私は、大学の評価というのはレストランに似ていると思っています。あそこのレストランがおいしいと評判になると、行列を作って並ばなくてはなりません。
ところが、面白いことにその隣には閑古鳥が鳴いているレストランがあるのです。どちらになりたいかということになれば、当然、行列を作って並んで欲しいわけですから、これからの評価の時代を乗り切っていくためには、常に積極的に自分の学校のチェックをしていかなくてはいけません。
そして、そこで潜在にいい部分があれば、それを顕在化させてPRすることが大切だと思います。例えば、私どもの大学でいえばそれはベンチャーです。
これは思いつきではなく、私どもの大学と同じ3000人規模の大学16校計3万人の学生をある受験誌の調査会社が調査した結果があって、そこでは20項目ぐらいについて調査したのですが、私どもの学生はベンチャー、広報、企画といった指標が高く、その中でもベンチャー志向が特に高かったのです。
主観的評価はだんだん客観的になり、それからマーケットの評価になります。ですから、学生が自分の大学をどういうふうに評価したか、保護者がどう思っているか、隣の学校とどう比較されているかということを常に評価する必要があろうかと思います。
私どもの大学でもキャンパス見学会を行っていますが、その時、参加した学生たちに他にどの大学を見に行ったかアンケートをとっています。正直に答えてくれますので、そうするとどういったところを見ているかということがわかります。
それから、評価基準が多様化しています。いろいろな評価が出てくるようになり、好むと好まざるとにかかわらず、評価が一人歩きします。
そうすると、大学の質、イメージといったもの、入口や出口から中身、過程が問われる時代になってきます。学校も学校そのものよりも学生の評価、主観的から客観的、偏差値から総合評価へと変わっていくでしょう。
(2)ミッション・ステートメントの重要性
ミッション・ステートメントとは、「大学の魅力、長所、目指すべき指針等を学内外の人々に、わかりやすい言葉にして表現したもの」ということです。
ピーター・ドラッカーは、「ミッションというのは営利を追求するという明確な目標がない非営利組織ほど重要度が高い」といっています。確かにそうで、我々は何をするかと揉めた時によりどころがないわけです。会社ならば収益力があるかどうか、前年比がどうかといった指標があるわけです。
しかし、大学はそのよりどころが数値的に確立していません。では、その時に何をよりどころにするかというとミッション・ステートメントが必要になります。私は、大学では広く、あまねく、地域の方に貢献するとか、キリスト教の精神を伝播するとか、非常に高い研究大学を目指すとか、そういったよりどころを示すためにもミッション・ステートメントがあるべきだと思います。
(3)アクレディテーションの日米比較
アメリカでは設置認可は比較的簡単ですが、その四年後にアクレディット(認証)してもらえるかどうかが重要になります。
先程、アメリカの大学は2244校と申しましたが、実は大学といわれる学校は4000校以上あり、アクレディットしているのがそのうちの2244校なのです。
それと比べますと、日本は設置認可が厳しいですが、その後の評価についてはこれまで確立されたものがありませんでしたが、ようやく第三者評価が義務付けられ、そのための組織も作られることになりました。
そこで、私はそれに先立ってご自分の学校で評価をすることが必要だと思います。自己評価はなかなか難しいことですが、そうすることにより外部評価のメリットとして、自己評価の意義付けができるきっかけになると思います。
また、国立大学では、理事会、評議会の評価能力の補完ということで理事会の中に外部の経営者を入れるということが法律で決まりました。しかし、大切なことは、第一評価者は学生であるということを忘れてはいけないと思います。
(4)大学はだれのものか
少子化により、どの学校も経営が厳しい状況は同じですが、そうした今こそ、大学の存在意義とは何かということを考えていただきたいと思います。
我々はマーケットが小さくなると駄目だと思いがちになります。しかし、少し視点を変えてみますと、大学は地域社会、同窓生、保護者や教職員、あるいは就職先の企業といったステークホルダー(利害関係者)とも密接に関わっており、そうしたところから必要なしとの評価を受けると存在意義がなくなってしまうことになります。そう考えますと、大学は高校生を4年間預かって、卒業させるということだけではないということがわかってきます。
そうしますと、これからは高校生、在学生、同窓生だけの広報活動だけではなく、あらゆるステークホルダーに対し情報を提供し、大学の存在意義を問うていくことが大切になっていくことと思います。
本稿は、平成15年9月会員セミナー「私学のサバイバル戦略 ― 大学・短大編 ―」において、講師が講演した骨子を編集部で取りまとめたものです。
初出:『私学経営』348、社団法人私学経営研究会、2004年3月
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